野菜と民藝の器

 

フウシカ・オーガニックの畑を訪ねたときに聞いた地力(ちりょく)という言葉が耳から離れない。言葉の意味は「作物の収穫をつくりだす土壌の能力」。土の豊かさとも言い換えられる。


フウシカ・オーガニック代表の森さんとお話するまで、農業における土壌の能力は人が作り出すものであり、土を耕し、多くの肥料を与えるほど美味しい野菜が収穫できると思っていた。でも森さんが行っているのは無肥料の自然栽培。土もなるべく耕さず、その土地が本来持っている力を引き出すのだという。それを聞いて、私の好きな民藝の器を思い浮かべた。

 

民窯(みんよう)と言われる、日本各地に残る伝統的な窯ではその土地の近辺で採れる土を使っている。釉薬の材料にその土地の植物や鉱石が使われることも多い。その特徴が器の「味わい」であり、「個性」でもある。個性のあるものは文化となって根付いていく。

 

東北最古の焼き物といわれる福島の会津本郷焼では、現在でも「鰊鉢(にしんばち)」と呼ばれる鰊の山椒漬けを保存するための陶器が作られている。海から遠く離れた場所だからこそ必要とされた器だ。

 

「やちむん」で知られる沖縄の焼き物には泡盛にまつわる酒器が多く見られる。日々の生活や神事においてどれだけ泡盛が身近なものであったかがよく分かる。釉薬にはサンゴやガジュマル、沖縄の一部で採取されるマンガン等の鉱物が使われている。

 

やちむんと並び人気のある小鹿田焼(おんたやき)。今でこそお皿などの日用雑器で知られているが、かつてウルカと呼ばれる鮎の塩辛を漬ける小さな壷が多く作られていた。商人が馬にたくさん壷を載せて運べるよう、なるべく薄く作って欲しいと注文したのが薄くて軽い器になった所以と言われている。そんな風に日本には驚くほど多彩な焼き物が存在していて、その特徴は自然環境や歴史と密接に関わっている。

 

同じようなことが日本の野菜にも言える。例えば大根は北から南まで、風土によって様々な種類が存在している。東北の寒さの中で育つ大根は凍ってしまわないよう、極端に水分が少ない。一方、最も大きな大根として知られる桜島大根は、海に囲まれて冬もあたたかい気候と、火山灰を含む柔らかい土壌により水を多く含み、大きく育ってもみずみずしくいただける。他にも亀戸大根、小田部大根など味も見た目も個性的な大根が育てられている。

 

古来種や伝統野菜と呼ばれる野菜の味が濃いのは、野菜を育てる過程で風土の特徴が凝縮されるからだろう。大量生産の野菜は人間がコントロールする部分が大きく、規格が決められているので味も見た目も画一的になる。現在の市場に占める古来種野菜の割合はわずか1%。人口を支えるために必要なことだったとはいえ、何百年もかけて培われた個性はライフスタイルの変化によりたった数十年で失われてしまった。それでもまだ森さんのように、土の力を信じて種を未来に繋げようとしている農家さんがいる。フウシカの不揃いな野菜を小鹿田焼の大皿に並べた時、本当に美しいと思った。大皿の迫力に負けない野菜の個性がそこにあった。

 

風土というのはその字が表す通り、そこに吹く風と積もる土が織りなすものだ。何百年、何千年という時の中で風土は形成される。私たちの身体のどこかにも、長い時を経て研ぎ澄まされた感覚や美しいものを見分ける力がきっと受け継がれている。季節の移ろいとともに生き、もののあはれを知る日本人独特の感性。その感覚や力を呼び戻してくれるのは、日々食べるものの味や目にするものの美しさかもしれない。

 

あらゆる生命とともに土が豊かさを取り戻すように、私たちもバランスを取り合って豊かさを取り戻せたらと願う。

written by Miho Hirano