FUUSHIKA organicへのインタビュー
オーナー・森隆博さん
「僕らの望む未来を実現する」
2020年、新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は一変した。スーパーにたくさんの人が並び、人との距離を保ちながら食料品を買い求める日々。移動を制限された生活の中で「農業ってやっぱり強いな」と感じた人は多かったのではないだろうか。種を撒けば芽が出て土に根を下ろし、実が私たちの糧となる。そんなシンプルなことがとても尊いと思える時間だった。
2020年8月の上旬、FUUSHIKA organicから「野菜を送りました」という連絡がきた。昨年は梅雨がー長く、野菜が採れるのか心配していたところだったのでとても嬉しかった。届いたダンボールを開けると、中には彩りに溢れ、さまざまな形をした野菜が顔を見せた。一口食べて野菜の味の濃さに驚愕。このギュッと詰まった力強さは一体どこから来るのだろう。
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FUUSHIKA organic オーナーの森隆博さんが八ヶ岳南麓に位置する北杜市に移住したのは2018年。それまではアウトドアアパレルブランドのパタゴニアで働いていた。長年東京近郊に住み企業に属しながらも、いつかは独立し違う場所で暮らすことを考えていたという。
「2016年にパタゴニアが期間限定で長野県の川上村にオープンしたクライミングストアで勤務したことが北杜に移住したきっかけです。その時に繋がりのできた方たちが北杜周辺に住んでいたことも理由のひとつですが、何よりいつでもクライミングに行ける環境が魅力的でした。農業の繁忙期にはなかなか行けませんが、できることなら毎日通いたいくらい山が好きです。」
2015年にはネパールへ遠征に行ったというほクライミングにのめり込んでいた森さん。お話を伺ううちに、農業とクライミングにはいくつもの共通点があることが分かった。自然に合わせて行動するところ。リスクと向き合うところ。集中して時間を忘れられるところ。急な天候を読んだり、たくさんのギア(道具)を使い分けるところ。
「どちらも自分ひとりで没頭できるところが好きです。基本的にひねくれ者なので誰かにああしろ、こうしろ、と言われるのが苦手で(笑)。最初に就職したのはアニメーション業界だったのですが、当時も自分のプランで行動することが多かったです。」
「やっていることは全然違うのですが、アニメーションは根底に社会批判や風刺をするカウンターカルチャーとしての側面を持っていて、今もなお発展しています。そういう意味ではオーガニック農法も1960年代の高度成長への拒絶や反戦といった、時代の流れに対する反発、自然回帰や平和主義への要求と共に新たな広がりを見せたカルチャーとしての側面もあります。60~70年代に発展したクリーンクライミング*にもそういった側面が色濃くあります。今の世の中にアンチテーゼを投げかけたい気持ちがあるのかもしれません。」
農業をカルチャーという側面から見たことがなかったのでとても新鮮だった。オーガニック農法を単なる野菜の生産方法やブランドとして捉えるのではなく、自分のライフスタイルや社会と直結するカルチャーとして捉えた途端、オーガニックという言葉が壮大なものを表しているような気がしてきた。
「子供ができたことがきっかけで、自分の人生をどう生きるかというだけではなく家族を守りたいという思いが芽生えました。自分たちの愛する自然を残したい、安全なものを子供たちに食べてほしいという願いから、3年の準備期間を経てオーガニック農家として独立しました。今は安全で美味しい野菜をより多くの方に届け、農園を通して自然と触れ合う機会も提供したいと考えています。」
企業を辞めて移住し、オーガニック農家としてひとりで独立するのはとても勇気がいることのように思える。よほど今の農業を変えたかったのだろうかと思い聞いてみると、予想外の言葉が返ってきた。
「今ある農業を、いわゆる打倒するとか破壊するという気持ちは持っていないんです。自分が自然栽培や環境再生型の農業を選んだことはカウンターカルチャー精神に通じると思うのですが、そもそも日本の農業はひとりではできませんし、地域の農家さんとの協力が不可欠です。農の先人達と古くから存在するコミュニティーには大いなるリスペクトを感じます。脈々と受け継がれてきたその土地の伝統や歴史もあります。今あるものを批判するのではなく、”こっちの方がいいんじゃない?楽しいんじゃない?”という新しい選択肢を創造できたらいいな、と。」
既存の安全地帯に身を置くのではなく、既存のものを壊すのでもなく、時代や場所に合わせて流動的に自分だけのスタイルを構築していく。そんな強い意志が必要とされることを、森さんはフレキシブルに楽しんでいるように見える。
収穫したばかりの野菜。
「フウシカに関わりのある方たちと、僕らがどんな世界を望んでいるのか?真のオーガニックとは何か?を一緒に考えていきたいんです。」
迷いのない森さんの言葉が、届いた野菜の強い味と重なった。クライミングを通じて厳しい自然と向き合い、さまざまなリスクを乗り越えてきたからこそ野菜が本来持っている力を信じ、目標に向かって進むことができるのだろう。届く野菜を食べるだけではなく、農場に足を運び、フウシカと一緒に未来について考えていきたい。
*クリーンクライミング:世界のクライミングの中心地であったヨセミテで1940年代の開拓期以降に提唱されたできるだけボルトを使わないクリーンなクライミング。その後フリークライミングとして発展した。
written by Miho Hirano