好き嫌いはあってもいいんだよ(前編)


『好き嫌いをなくして、何でも食べよう』先日、ある小学校の近くを車で通りがかった時
、ふと目に入った標語。うーん、まだこの言葉は当たり前のように言われているのか…、
と思った私。皆さんも一度は見たり、聞いたり、誰かに言ったことがある言葉なのではな
いでしょうか。私も耳にタコができるくらい聞き、うんざりしてイカのような目になって
きたうちの1人です。

子どもの頃、大人にこの言葉を言われる度に私は子どもなりに反抗していました。
「おばあちゃん、ヨーグルト酸っぱいって言って食べんやん」
「お母さん、練り物好きでおでんに練り物ばっかり入れるやん」
「お父さん、ポテトサラダは喉に詰まるって言って食べんやん」
そうすると、またお決まりのように言われる「好き嫌いがダメ」な理由が返ってきました

母:「栄養バランスが偏るから健康に悪い」
祖母:「嫌いだからと食べ残すのは作った人に失礼だし、食べ物を粗末にするということ
だから悪いこと」

私はどーも納得がいかなくて、さらにナンデナンデを繰り出す。私に納得いく理由を説明
できない彼女たちは「ぐぬぬ…」と言葉に詰まり、最終的に「ダメなもんはダメ!」と力
技で押し切る。これが事あるごとに何度も繰り返され、こりゃダメだと思った私は、次第
に反論は内心に留めるように。

こんな経験から、やがて食に興味を持ち、管理栄養士の道を目指した私。その過程でも「
好き嫌いはダメ」とその理由の固定観念を、セットでこれでもかというほど見聞きしまし
た。というか、栄養学の知識があればあるほど「栄養バランス」と言う傾向があるんです
よね。

でもね、やっぱり納得がいかなかった。「カラダにいいから万遍なく食べなきゃ」「残し
たら悪いから全部食べなきゃダメだ」って考えて食べるなんて、すごく息苦しい。頭カッ
チカチになります。こんな状態になる方が心にもカラダにも不健康、本末転倒。
「何のための栄養バランスじゃーいっ。」
食を栄養学だけからみると視野が狭くなる。私はその後、治験 ※1 という製薬/医療分野の仕
事を経て、アーユルヴェーダ ※2 や薬膳 ※3 を学び、色々な視点から「好き嫌いはダメ」とその
理由を考えました。


結論は「好き嫌いはあってもいい!」どうして音楽やファッションに好き嫌いがあっても
いいのに、食に限って好き嫌いがあってはダメなのでしょうか。
「好き嫌いをなくそう」は、「みんなと仲良く」という観念に似ているなぁ、と思います
。共通点は軸が自分にないこと。人間関係で仲がいい人、合わないなぁという人、いませ
んか。その基準って自分と相性ではないでしょうか。食べ物の好き嫌いも同じ。皆の体質
は同じではありません。
体質には生まれもったもの(先天性)と、生活環境によるもの(後天性)があるので、人
によって季節や気候、年齢で体質は変わります。つまり、カラダは環境に適応しようと常
に変化していて、必要なものと不要なものは変わり続けているということ。そのことをカ
ラダは「好き嫌い」という感覚で教えてくれます。そう、好き嫌いはカラダからのとって
も大切なメッセージなのです!


※1治験:新しい「くすり」が国の承認を得るために、安全性や有効性を科学的に確認する
ために行う臨床(=人を対象とした)試験のこと。
※2アーユルヴェーダ:インド発祥の5000年以上の歴史を持つ伝統医学。「生命の科学
」「生命の知識」を意味し、予防医学・治病医学にとどまらず、高度な生命哲学としても
注目されている。
※3薬膳:伝統医学の一つ、中医学では「気」「血」「津液」の3要素からカラダは構成さ
れており、そのバランスが崩れると不調につながると考える。その理論に基づいて、アン
バランスな状態を食材で調整し、バランスの取れた「中庸」の状態へ体を戻す、という食
養生の方法。

written by Yuko Hama

 

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